【089】建築・心理の両面から検証することが大事な施設適正規模

建築的施設適正規模とは何か?

レジャー施設の建設する前に必ず検証する作業で「施設適正規模」というものがあります。作った施設にいったい何人の人が入れるか?ということを検証するものです。
あくまでも図面上の検証なので計算した結果の人数が入れるかどうかは不透明なところもありますが、この検証によって施設内のデッドスペースがどこにあるのか?どのあたりが混雑しそうなのか?を事前に調べて施設内の最大滞留者数の算定に活かすのが目的でもあります。

テーマパークや遊園地などのアトラクション、この他のレジャー施設でも店舗前にできる待機列(キューライン)を1時間待ち、2時間待ちなどと想定して列をどのように引けるか、何人収容できるかを検証します。

このときに大事になるのが、ゲスト一人当たりがどのくらいの面積を占めるのか?この業界では「占有面積」という言葉を使いますが、これについては日本建築学会から出ている「建築資料集成」という本にある単位空間という基準を適用することが多いです。

これによると人間が集まるときの混雑度合いは6段階に分かれます。
評価基準A 占有面積 3.2㎡以上
評価基準B 占有面積 2.3~3.2㎡
評価基準C 占有面積 1.4~2.3㎡
評価基準D 占有面積 0.9~1.4㎡
評価基準E 占有面積 0.5~0.9㎡
評価基準F 占有面積 ~0.5㎡

当然、専有面積が多い方が人間の動きの自由度が上がります
ゲストが自由に動き回る施設内の主要動線などはA(超繁忙日設定ならB)を用います。キューラインのように一方にしか動かない場合にはCを使ったりします。
D以下は基本的に動くことに極端な制約がかかるため、不特定多数の人が来るレジャー施設ではあまり望ましい状態とは言えないのであまり使わないようにしています。

占有する形状を正方形と考えると
占有面積 3.2㎡  → 1.8m四方
占有面積 2.3㎡  → 1.5m四方
占有面積 1.4㎡  → 1.2m四方
占有面積 0.9㎡  → 1.0m四方
占有面積 0.5㎡  → 0.7m四方
です。

前の人との間隔は1メートルくらいはないと、動いたりするのは難しいことは理解できるのではないでしょうか?
ここまでは、建築的な考えからの検証です。

心理学的適正規模

レジャー施設で並ぶときに全然知らない人が前後に詰まっていたら・・・あまり気持ちよく並べないですね。こうした建築的な検証を何度しても、ゲストがその通りに並んでくれないと算定結果はあまり意味を持ちません。この辺りがよく建築担当者と議論(→喧嘩に発展)するところです。

実はもう一つこうした単位空間についての検証方法があります。それは「行動心理学」という方向からの検証です。最近この研究がどんどん進んできていろんなことが数値的に検証されてきました。
行動心理学では「人間も縄張りがある」という考え方があり、この縄張りのことを“パーソナルスペース(Personal Space)”とか“ヒューマンスペース(Human Space)”と呼んでいます。自分を中心にして、ここで規定されている距離以内には自分の持っている親密度によって入ることを許容できるというものです。

行動心理学でのパーソナルスペースは4段階に区分されています。
親密ゾーン(家族、親友、恋人) 半径 ~0.6m
対人的ゾーン(友人、親しい同僚) 半径 0.6~1.2m
社会的ゾーン(同僚、上司) 半径 1.2~3.3m
公的ゾーン(個人的なつながりのない人) 半径 3.3m

この4つのゾーンに自分が許容できない人が入ってきたときに取る人間の行動は
・視線を合わせて嫌な顔をする
・相手との間に物を置いて自分の領域を囲う
・体制を変える
・相手に背を向けてバリアーを作る
・文句をつぶやく
・視線を合わさないようにする
・相手がいないかのように振る舞う
・不満を態度で表す
・10~30分以内に立ち去る
どの対応も基本的に敵意があり、レジャー施設では好ましくはない対応といえます。

ここで建築的な占有面積と行動心理学のパーソナルスペースを比べてみます。

基本的に知らない人が列の前後に並んでいる場合が多いし、通路を歩いても知り合いに偶然遭遇することはあまりないです。行動心理学的にはゲストはレジャー施設内では半径3.3m以内には人が入ってほしくないのです。
しかし建築的にはこれだけのスペースを割いてしまうことは難しく、1.8m以内に納めたいところです。
こうして考えるとレジャー施設のキューラインは行動心理学的には“常にパーソナルスペースに侵入されている不快な空間”ということになります。「できれば並びたくない」、「並ぶのは嫌」というのは至極当然な考え方になります。

建築と心理学との差異を埋める工夫

では、レジャー施設側はここにどんな対応を考えるべきなのでしょうか?建築的な評価基準で占有面積2.3㎡、つまり1.5mの距離にあるのは行動心理学では社会的ゾーン、つまり「会社の同僚や上司」のレベルです。プライベートとしてはそれほど打ち解けていなくても業績という目標に向かっては協力できる関係。こう考えるとキューライン中では「列に並ぶ苦難を共に乗り越え協力できる関係」のレベルになれば縄張り意識がほぐれます
なので、キューラインではその先の施設の案内(乗り物のストーリービデオなど)が存在意義を持ちます。またキューライン内にある様々な仕掛け(オブジェ、文章など)はゲスト同士の縄張り意識を緩和できるようなものを配置する必要があるのです。

そして、キューライン中ではゲストを放置しておくと、公的ゾーンの距離感を自然に取ろうとするので、スタッフが巡回して列の整理(前に詰める)所作が必要になります。
また常に列が動いている状態が作れれば、縄張り意識より「もうすぐ乗れる」という期待感が強くなり列が自然に詰まってきます。

テーマパークのアトラクションで待ち時間が2時間という表示があったのに、実際には1時間程度だったという経験をお持ちの方もいると思います。キューラインは占有面積で考えてどこまで伸びたら何分という発想で決められていますが、並ぶ人を放置するとゲストの列間隔が1.5mから3.3mになり結果、思ったほど待ち時間がなかったということが考えられます。

建築的にOKであっても、行動心理学を加えると、費用的には無駄に見える設備を入れたり、列があってもスタッフが巡回することは実はゲストのキューライン中での心理的な安全確保の意味ではとても重要なのです。

こうしたことを体験するために、自分もテーマパークや遊園地では人気アトラクションはよく乗ります。表示された待ち時間より短い時間で乗れたときには嬉しい反面、行動心理学的なアプローチが足らないんだな。という判定をしてしまいます。良くない傾向であることは十分わかっているんですが・・・。

今回参考にした書籍

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