「テーマパークに人を呼ぶにはいくらかかるか?」最新研究


香港ディズニーリゾート(HKDR)の決算発表


2023年10月~2024年9月までの香港ディズニーランドの決算結果が発表されました。という記事
を日本で2月の終わりに見ました。

2013年以降赤字が続いていたそうですが、今期は10年ぶりに黒字回復したそうです。

好調な結果になった要因は、2023年に開業した新エリア「WORLD OF FROZEN」の開業、それに伴う園内各所のリニューアルの結果とのことです。

今期の一つ前の2022年10月~2023年9月までの決算結果と対比してみると、香港ディズニーランドの数字が色々と見えてきました。

今回は、この点を深堀してみます。


目次

香港ディズニーリゾート(HKDR)の決算発表

2023年と2024年の実績対比

損益分岐点の算定

新規投資分の減価償却を固定費にして再計算

WORLD OF FROZENは大成功!?

TDRのファンタジースプリングスとの比較


2023年と2024年の実績対比

まずは実績の対比します。以下に示します。


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入場者数は130万人増加、売上は30億HK$、利益は12億HK$の増加となっています。

ここから、各年の入場者数の単価を見てみましょう

2023年度は891HK$が2024年は1143HK$と1000HK$を超える結果になりました。

 

損益分岐点の算定

さて、こうした結果から、香港ディズニーランドの損益分岐点を計算してみます。2023年と2024年の売上と経費、利益の差異は以下の通りです。


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売上差異と経費の差異から、変動比率を算定してみます。経費差異÷売上差異=61.5%となりました。

変動比率を使って、経費を変動費と固定費に分離します。変動費=経費×変動比率なので、固定費=経費-変動費なので、以下の通りになります。

さらに、損益分岐点を出すために、各年の限界利益(=売上-変動費)を出して、売上に対する比率(原価利益率)を算出すると以下の通りです。 損益分岐点=固定費×限界利益率ですから、それぞれの年の損益分岐点売上は以下の通りになります。


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2023年は67億HK$、2024年は69億HK$になりました。新エリアの建設による減価償却などが含まれていると考えると、当然2024年の方が高くなります。

2023年の単価で各年の損益分岐点を達成する入場者数を計算すると2023年が755万人、2024年が776万人(2024年の単価で割ると605万人)ということになります。入場者数21万人分が新エリアの影響で新たな負荷となります。

 

新規投資分の減価償却を固定費にして再計算

さて、この計算方法は実は矛盾があります。本来固定費として計上される減価償却費を変動費で計上してしまっています。

これを修正するためには投資額を検証しておく必要があります。

新エリアの投資額は109億HK$、これを構造物と設備に8:2に分けます。

構造物(建物、インフラ設備、造成費用)は30年償却、設備(アトラクションなど)は10年償却、それぞれ期限後の残価が10%で1年目の減価償却を計算します。金額が11億HK$になりました(下図)。


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これを変動比率に算定前の経費から引いておきます。変動比率を再度計算すると26.2%です。

この比率を使って、先ほどの計算をやり直すと以下の通りで、損益分岐点は2023年で62億HK$,2024年は64億HK$となります。ほぼ同じともいえる数値なので、構造物と設備の経費割合は8:2で問題がなさそうです。


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では本題の損益分岐点を計算します、最初に外した減価償却が固定費として上乗せされるので、当初算定した固定費+減価償却1年目で62億HK$です。


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限界利益率=変動費÷売上なので当初と同じです。損益分岐点は固定費÷限界利益率=77.5億HK$となり、2024年の単価で割ると678万人の入場者数ということになります。


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WORLD OF FROZENは大成功!?

新エリアの開業に合わせて、チケット代金を値上げと新ホテルによる高単価客の需要増によって、客単価が大きく上がったので、固定費が増えながらも損益分岐点売上になる入場者数は2023年(695万人)よりも低くなりました。

この計算の通り行けば、香港ディズニーランドの今回の大型投資は大成功(損益分岐点を達成する入場者数は以前より少なくなり、一方で単価増加により利益は増加)ということになります。

 

TDRのファンタジースプリングスとの比較

さて、今回の投資額の効果はどのくらいと考えれば良いでしょうか?東京ディズニーリゾートも香港の翌年にファンタジースプリングスという施設を開業させています。

両施設の投資額と顧客獲得効果(投資額÷増加分入場者数)を比較してみます。

日本と香港では物価が全く違うので、販売チケットの価格を物価の対比の目安とします。

最も高い日の大人のチケットは日本が10900円。香港は939HK$(=18040円)なので、

香港物価=日本物価×165.5%です(下図)


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続いて投資額ですがTDRは総額3200億円。ホテルが440億円(すでにある東京ディズニーランドホテル並み)と仮定すると、その他は2760億円。

この投資で増加を見込む入場者数は423万人と言われていますので、一人当たり65248円です。

一方で香港は総投資額109億HK$、ホテルは日本と同じレベルと考えると(440億円÷19(円/HK$)×165.3%)で37.9億HK$が必要です。残りは71.1億HK$。

これで130万人増加したので、一人当たりは5469HK$。これを円に換算すると105070円。

そして日本の物価に合わせると、105070÷165.3%=63483円(下図)


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年間集客が500万人を超える大型施設で、100万人以上の規模の集客を得るための投資額は日本円換算で一人当たり6万円~7万円が必要になるようです。

TDLが建設された1983年には一人1万円程度で済んでいましたが、時代とともに価格が上昇し、更には施設景観にかかる費用などが必要になったことで、こうした経費の大幅な増加が発生しています。

もちろんこれはディズニーやユニバーサルのような「巨額の投資をかけて、膨大な集客数を稼ぐ」施設での話です。

ここまでの集客や売上規模がない施設には無縁な話か?と思う人もいるかも知れませんが、この検証から利用できることは実はたくさんあります。

中小規模の施設でも投資活動を行う際には、今回の検証のようなことを自前で検証できるようにすることが大事です。

景気の悪い時代なので、失敗をできるだけ避けて、大事なお金を大切に使えるように、こうした検証は今後、必須になるでしょう。

 


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