【090】レジャー施設の飲食店舗の評価が低い訳
テーマパークにしても水族館にしてもレジャー施設の飲食店舗でアンケート調査を行うと大抵上位に入ってしまう意見が「まずい」です。これだけ見ると経営層からすぐに「飲食メニューをうまいものに変えろ」と指摘を受けそうです。実際、こうした指摘をする経営者を何度か見たのですが、現場は困惑します。「うまいものって何?」これほど抽象的で漠然とした業務の指示ってないですよね。
でも、こうした結果になることに関してはしっかり考察しておくべきです。こうなる理由は二つあります。
- 施設周辺の競合店舗と比べて本当に美味しくない、食べ比べても明らかに最下位のレベル
- かけられる経費の違いからくる味のレベルダウン
前者に該当する結果が出たときには、せめて後者になるレベルの改善が必要です。いくら何でも周辺で最下位では顧客満足度的にも大問題ですから・・・。
後者の場合でアンケート調査結果が「まずい」と出たことだけを根拠に飲食メニューを変更しなさいという指示を上層部から受けた現場の皆さんに一つアドバイス。この段階ではドクターXの大門未知子みたいに「いたしません!!」と断ってしまいましょう。
街中の飲食店舗は顧客の維持が大変なんです
まずは、街中にある飲食店舗の経費のかけ方について検討してみます。
一般の店舗の場合、経営していきために必要な経常利益は売上の10%は必要でしょう。そしてよく言われるFL費(FoodLaber-Cost)、つまり原価と人件費は60%以内にするのが理想的な状態とされています。これ以外の経費(店舗の維持経費)は30%以内にしないと利益は10%でなくなります。
もう一つ一般の店舗では顧客の離反率というものを気にしないといけません
1回での離反率50%以上
3回での離反率80%
せっかく呼び込んだお客でも3回以上来てくれる常連客になるのは初回来場客の20%以下であるということです。
新規顧客を次々に開拓するのは限界があります。商圏には限りがありますから、離反率を少しでも少なくすることがお店としては大きな課題。このため少々原価が高くても人気の高い食材や、原価を高くしてもボリュームを増やすなど、FL費に大きなダメージが出ない範囲で原価を上げていくというのが普通です。
レジャー施設の飲食店舗は利益を他に取られます
一方で、レジャー施設の飲食店舗はどうでしょう?
店舗の離反率に関してはレジャー施設全体のリピート率で左右されますので離反率は街中の一般店舗に比べると少ないはずです。どうしようもない赤字のレジャー施設でもない限りリピート率は60%以上あるはずで、離反率で見ると30~40%くらいでしょう。
問題はFL費です。
人件費30%以下が理想とされていますが、最近は人手不足だったりしますので実際は35%程度で推移するところが多いのではないでしょうか?そして食材の原価ですが35%程度が普通です。一方でレジャー施設が有利になるのが通常店舗が固定費として考えなければならない販促費や施設維持費。こちらは施設の入場料から負担するのが通常なので飲食店舗だけで考えるものはそう多くはありません。
となると、レジャー施設の飲食店舗の利益は“売上-FL費”で利益率は30%近くは出ることになります。だったらもっと原価上げて高級食材を使ってもいいのでは?と思いがちですが、実は、この飲食店舗の利益は施設の全体の利益の中で大きな比率を占めます。
レジャー施設の宿命ともいえる事項ですが、入場料金はほとんどが経費として当てにされていて入場料金から生まれる利益はほとんどないのです。
飲食店舗だけで見るともっと経費を使いたいけど、経費を使うと施設全体の利益を損ねる、そのジレンマと常に戦わなければならないのがレジャー施設の飲食店舗なのです。
値段を上げればすべてが解決するわけではない
では、もっと利益を出すためには?売上を上げる、つまり値段の高いものを投入するという選択肢があります。しかし、ここにはレジャー施設に来るゲストの金銭意識の壁が立ちはだかります。
不思議なことに入場料を取るようなレジャー施設はほとんどの場合で飲食単価は全体の客単価の20%程度です。
つまり客単価の20%を極端に超えるような価格のメニューを作ってもゲストから敬遠される確率が高くなり、結果ロス率が上がって原価を圧迫しかねないということになります。
味を追求したいけど、利益と単価の制約の中で飲食店舗は運営しなければならないので、結果街中の飲食店舗に比べて値段の割に味が落ちるという評価になりがちです。
レジャー施設の飲食店舗の対抗策
この状況を「仕方ない」と諦めるのはよくありません。ここに対しての対抗手段は二つあります。
- 原価を極端に圧迫しない程度の個数限定での高単価メニューの開発
- 原価内でできる見映えの向上
前者はよくある「限定10食」とか「この時期限定」といったメニューです。クリスマスやバレンタインなど“見栄消費”が期待できるシーズンには有効です。高単価メニューは他の商品の割安感を持たす効果もありますので、「値段の割に・・・」という評価の改善効果もあります。
後者は、レジャー施設だからこそできるメニューです。既存のキャラクターや施設のシンボルなどをかたどった飲食メニュー。味じゃなくて見てくれで勝負です。最近は「インスタ映え」も飲食メニューが売れるかどうかの重要な指標になっていますので、原価はそのままながら手間をかけて“映える”メニューを開発することも大事です。今、日本で好調なレジャー施設の多くは、このメニューがあります。
迅速に対応すべきアンケート意見もあります
「まずい」という評価だけで落ち込むことはありませんが、こうした努力を日頃しているかどうか?その上で顧客の評価がどうなっているのか?という検討の仕方がとても重要です。
最近好調のサンリオのテーマパークはまさに後者の手法はとても強化しています。USJでも普通の食材のイベントコンテンツのデコレーションが載るだけで売れるようになります。
味じゃなくて見栄えが変わるだけで「まずい」という評価がわかるのは不思議なことですが、アンケート意見の分析は熟慮が必要な一例です。
ちなみに意見の中で「(食事が)冷めている」、「(食事が)辛い」、「(食事が)甘すぎる」なんていうのは早急に手を打つべき課題でしょう。こちらはゲストの意見でどんどん修正する必要があります。
ゲストの皆さんもアンケートに意見を書くときには「うまい」「まずい」ではなくて、「暖かかった」「冷めていた」「甘い」「辛い」という内容にすると意外に早く対応してもらえるかもしれませんね。
今回参考にした書籍