【088】テーマではなくストーリーが大事
中国でテーマパークについてのセミナーを行うとこんな質問を受けることがあります。
「テーマはどうやって決めたらいいですか?」
始めてこれを聞いたときは、正直固まりました。中国では「テーマパークを作る」ということが先行して、計画を始めてからテーマはどうしよう。という話になることが多々あります。
もともと具現化したいテーマがあってそれに合う場所を探し、計画をするのが本来の流れだと思うのですが、どうやらテーマパークを作るというと土地の利用や資金援助などの話がしやすくなるようで、後からテーマを決める方法が何かあると思っている人が多数います。
テーマパークという概念が入ってきて40年弱しか過ぎていないので日本でもテーマパークのテーマはしばしば話題になり、ときには??と思うようなテーマになってしまうことがあります。
テーマはそれほど重要なのでしょうか?
テーマを置かない遊園地として成功している施設も日本ではたくさんあるし絶対に必須な要素だとは自分には思えません。USJのように「夢のハリウッド」というテーマを持って運営していたときは全然ダメで、その後いろんなテーマを期間ごとに持ち込んでみたら大成功しているという施設もあります。
自分はテーマパークで重要なことはテーマではなくて「ストーリー」だと思っています。
その施設が現在運営されているのはどのような背景があり、どんな話があり、現在に至っている・・・という感じです。施設全体だけでなくてアトラクションやレストラン、ショップなどそれぞれにこうしたストーリーがあればもっといいと思います。
TDRもUSJもテーマについては前述の通りなのですが、ストーリーについては実にうまく作られています。TDRは施設全体のストーリーがあり、これを踏襲した個別施設のストーリーがある。USJは全体のストーリーははっきりしたものはありませんが、個別のアトラクションやショー、レストランなどにはストーリーを持たせています。このストーリーを形作るコンテンツに人気のアニメや映画などを利用するから人気があるのだと思います。
施設全体にストーリーを持たせ、それに合わせて施設を作るのはなかなか難しいです。TDRはディズニー社という映画会社が考えたストーリーやコンテンツを利用するからそれが実現できるわけで、映画会社などストーリー作りが得意な会社でない限り簡単に万人に受けるコンテンツは作れません。
むしろUSJのように施設内にあるパーツごとにストーリーを与えるのであればまだ検討の余地はありそうです。最近は遊園地でもこうしたストーリーを重視したアトラクションが増えてきました。よみうりランドの「グッジョバ!!」などはその典型ですし、富士急ハイランドの「ええじゃないか」「フジヤマ飛行社」なんかもそうです。
さらに水族館も最近は期間限定のショーや施設内演出などにストーリーを持たせて演出することも多くなっています。
全体で共通のストーリーを持たせることは建設の段階から大きなコストが必要になりますが、このように細分化された施設に独自のストーリーを持たせる、もしくは期間限定で施設全域にストーリーを持たせるなどの方法であれば経費も小さくて済みます。
何よりもストーリーを多くすることでそれに反応する客層幅を広げられるというのが一番経営的には良い恩恵ではないでしょうか?
ストーリーは作るだけではダメで、作ったストーリーにあった雰囲気で運営することが求められます。人的作業でいうとキャストという考え方です。役者さんですから自分自身の素を出してはダメで、動作や発言などなりきることが必要になります。これは簡単にはできません。ストーリーを作るだけでも大変なのにさらに演じることまで考えると・・・とこうしたストーリー性を持たせることを躊躇する施設もあります。
こうしたストーリーの作成やキャストとして演じることは運営の必須要素ではありません。施設の付加価値を上げるためのものですからストーリーは作ったもののそれを維持する重要性を考えず、結局テーマもストーリーもない施設になってしまう場合もあります。
テーマではなくストーリーという考え方は何もテーマパークだけの話ではありません。飲食店舗や物販店舗でもこのお店はどういう経緯でできて、この先何を目指しているということは大事です。メイドカフェなんかはこうしたストーリーが実にうまくできていてメイド(店員)もそれを理解しているから成立するのだと思います。
ストーリーを作る、ストーリーの世界を演じる。この二つがうまく機能しないとテーマパークという仕掛けで収益を上げることは難しいのです。
「テーマをどうしよう」と悩むより「この施設ができることになった背景の話を考える」ことに注力することが大事です。
そして既に運営している施設でこうしたストーリーの考え方を導入する場合には最初は小さく一つの施設から始めて徐々に広げていくことです。
施設はいつかリニューアルしなければならない時期が来ます。その時までに少しづつ(途絶えないように)継続することが重要です。脂肪質から筋肉質へダイエットするようなイメージで徐々に進めることが大事です。