【081】「滞留時間を伸ばすためのコストは無駄にならない」の10年後


ここすご2020


この章では売上のために滞留時間を伸ばすことがいかに重要か、そして滞留時間の増加を阻害する要因があることで施設が損害を受けることを書きました。
TDRがこの10年で大きく変わったことの一つが滞留時間、入場者数、売上などです。世間的には2008年にリーマンショックが発生し、以降消費税の増税などお金を使うことに関してはどんどん渋くなっているのが現状ですが、TDRについては10年間で1300億円くらい売上が伸びています。もちろんこれには入場料の改訂(値上げ)も含まれていますが、それだけではありません。


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まずは入場料を見てみましょう
2009年 大人パスポート 5800円 → 入場料単価 4222円
2019年 大人パスポート 7400円 → 入場料単価 6193円
確かに入場料を上げたことで単価は伸びています。全員が大人料金という訳ではありませんので「入場料単価÷大人入場料金」で比較してみると
2009年→72.8%、2019年→83.7%
つまり、この10年で大人利用者(しかも正価の個人客)が増えているという結果になります。これはゲストプロフィールを見ても40歳以上のゲストの割合が2割ほど増えていることからもわかります。

さらに入場者を解析してみると、
2009年 25424千人 → 2019年 32560千人(+7136千人)
これにゲストプロフィールを掛け合わせてみると・・・
大人料金で入る18歳以上のゲストの増加が5588千人(全体の78%)。つまりこの10年間で増えたゲストの8割が大人ということになります。
これらのデータはオリエンタルランド社のアニューアルレポートから算定できますので、数字に自信がある人はぜひ解析してみてください。

遊園地やテーマパークでは「子供がメインの施設」というところもたくさんありますが、実はTDRでは大人が増えたことで集客が大幅に伸びているんです。

“子供だまし”という言葉がありますが、多くの遊園地はテーマパークは子供の甘えやわがままが園内の消費につながっている場合が多数あります。子供に「買って」と言わせることがいかに重要か?というのが一般論なのですが、TDRはこの戦略を取っていないことになります。TDRでは最近“大人ディズニー”と呼ばれる商品や滞在のスタイルを打ち出してきています。これらも大人比率増加に一役買っているように感じます。


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テレビ、雑誌、WEB、SNSなどいわゆるメディア媒体にTDRが登場することは多々あります。私のような田舎暮らしでもTDRの新イベントはテレビの情報番組で取り上げられますが、他の施設の情報と比べるとTDRの情報はちょっと異質です。それは「施設のハードをあまり紹介しない」という点です。紹介時間の半分以上はこの時期に売られる飲食や物販の商品、イベントの内容など二次消費のものに割かれていることが非常に多いです。

同様にSNSで最近重視されている“映え”についても施設の背景で写真を撮るようなものではなくて、販売商品や飲食物などを使っての“映え”が多くなっています。

こうした“映え”の活動を園内各所で行えば、商品も売れるし、“映え”に費やす時間も伸びて滞留時間も伸びるはずで、2009年に8.4時間(これだけでもすごいと思うが・・・)ですが、2019年は8.9時間と伸びています。

滞留時間が延びれば1時間足りの使う金額は減るという施設も多いのですが、2009年と2019年の対比で飲食は104.3%、物販は118.3%と伸びています。入場料金が高くなったのに、内部での消費も伸びているというところが注目点です。

いくら“映え”体験したいと思っても、その商品がゲストにとって高すぎると判断される価格では消費は伸びませんが、TDRの飲食、物販は他の施設と比べると割合安価です。ライバル施設のUSJと同様なものを比較してみましょう

ポップコーン(レギュラーサイズ) TDR400円 → USJ500円
チュリトス TDR350円 → USJ550円 
ターキーレッグ TDR800円 → USJ900円
※2019年12月調査価格

形状、大きさ、味付けなど差はありますが、総じてUSJは値段が高めです。これに関しては経営形態の違い(自社敷地と借地、完全自営と親会社多数、版権利用料の必要有無)などが影響しているとは思いますが、遊園地やテーマパーク施設の商品としてはリーズナブルです。物販商品も同様の傾向があります。つまりTDRはゲストに対しては他よりも少しだけ薄利多売方式を採用しているということになります。この辺りの価格戦略はディズニー社の戦略というよりも三井越後屋を商売の祖となす三井グループの戦略かもしれません。

商品単価は手ごろでも長くいることで消費金額が増えてしまう。しかしその分の元が取れる経験ができるということがゲストの消費を支えているところが10年経ってもやはりすごいところなのです。

そして、じわじわと大人比率を上げているということは少子高齢化社会にも強い施設であるということです。テーマパークや遊園地業界全体で少子高齢化社会になってからの利用機会損失を危惧するところが多いのですが、こうした風潮にも耐えられるゲストプロフィールへ移行している辺りもこれまたすごいところです。

 

 

 

 

 


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