【084】観光列車がレジャー施設のライバルになる日

先日、西武園ゆうえんちが70周年の記念事業として大幅なリニューアルを実施するというニュースがありました。

https://www.seibu-leisure.co.jp/renewal_20200123.pdf

西武園ゆうえんちというと最近はあまり元気がなく、次に閉鎖する施設ではないか?という話もあちこちから聞きました。今回は1960年代をテーマにしたリニューアルということと、USJを復活させた森岡毅さんが計画に参画しているということでどうなるかとても楽しみです。

施設や地域の集客を目指す際にいわゆる“古き良き時代”をテーマに掲げるのはいろんなイベントで常套手段と言えます。自分的にとても注目しているのが鉄道事業での集客イベントとしてのSL運行。SLといえば古き良き時代の象徴的な存在で、全国の色々な場所でイベント列車として運行されています。

SL大樹に乗りました


SL大樹SL大樹


先日、そんなSLに乗る機会に恵まれました。東武鉄道の観光列車「SL大樹」です。走行場所は鬼怒川温泉から下今市。東京からは2時間くらいかかる場所です。正直交通の便の良い場所ではありません。しかし、実際に行ってみると座席はほぼ満席で、出発の前後では駅にはたくさんの人がSLを見に来ています。乗っている間も車窓から見える風景の施悦明や周辺の観光地の案内、さらにはSLの歴史など30分強の乗車時間をフルに使っていろいろ楽しませてもらいました。

何より驚いたのが沿線住民の皆さんがSL通過に合わせて、家の窓から手を振ったりしてとても好意的なこと。今まで何度か観光列車に乗りましたが、車窓から見える家から手を振ってもらうというのは初めての経験でした。沿線の教習所もシュールな看板で歓迎していました(笑)


SL大樹SL大樹


SLを使っての観光や集客イベントはかつて北海道で盛んでした。2000年の初頭は北海道のあちこちでSLが運行されていました。以前小樽でSLを見たのですが、あれから20年くしくも今回のSL大樹号を牽引しているSLと全く同じものでした。SL大樹号も運行が開始されてから3年以上経ちますが、運行開始1年目だった北海道のSL観光列車に比べて周囲からの愛され方、列車に対しての盛り上がり方などずいぶん違います。明らかにSL大樹の方が盛り上がっていました。

JR北海道と東武鉄道の意識の差

いったいこの差はどこから来るのか?2000年初頭と比べると、スマホがある、SNSがあるなど知名度を上げるツールは現在の方が豊富だし、2000年当時は北海道と言えども現在のようなインバウンドの観光ブームではない時代なので単純に比較はできませんが、ハードとソフトの面で東武鉄道の運営方法はJRのそれをはるかに凌駕しています。

まずはハードの面。
SLは前後が非対称な機関車なので前向きで走らないとすごく不格好です。このため東武鉄道は下今市と鬼怒川温泉の駅の脇に転車台を設置しました。しかも駅に入らなくても見られるような場所にあります。汽車の転車という作業で考えると本来はあまり客に見せるような場所に作るものではありませんが、あえてこれをいろんなところから見てもらえるような場所に作ったことが素晴らしいです。SLや鉄道に興味がある人だけではなく観光で当地を訪れた人の副目的としても機能しています。
また転車をすることで常に走行時は前向きで走れるので見た目もよいです。


SL大樹SL大樹


SLを走らせることだけを目的にしていたら、転車台を二カ所も設置するような投資を行うなど考えもしなかったでしょうが、SLが好きな人の心理やSLで観光を盛り上げるという視点で考えた場合、“映え”を意識した運営をするための投資と考えているように感じます。


SL大樹
SLニセコ(北海道 2001年撮影)


北海道の場合は札幌を出るときには前ですが、帰りは後ろ向きでした。利用している客車は昔ながらの客車でとても“映え”ていたのですが、とにかく帰りは先頭が残念でした。

次にソフトの面。
まずは機関士の皆さんの接客姿勢は感服です。SLはそれこそアナログ機器の塊ですから本来は四六時中計器を見ていないといけないという強迫観念があると思いますが、とにかく笑顔で周りの人に手を振ります。運転手が周辺に手を振ってくれる・・・というのは昔の映画の中だけのことかと思いましたが現実に見るととても和むし癒されます。鉄道の旅って良いなぁという感じがとても強まります。


SL大樹


続いて、運転中の車内は各車両(4両)に一人ずつ説明役のアテンダントが付いて説明します。車内放送で済ませてしまうJRとはここは大違い。鉄道なので停車駅の案内など車内放送はありますが、それ以外はアテンダントさんのトークで進行します。

最後に、沿線住民の皆さんの協力。なんといってもこれが一番大事でしょう。SLの通過時間などよほどのマニアでもない限り、詳細を知っているはずもありませんが、手を振ってくれる周辺住宅の方がホントに多かったです。

アテンダントさんの説明の中で、一日三往復の運転時必ず手を振ってれるおばあちゃんがいるなどの紹介もあったので、東武鉄道の人が沿線住民といい関係を築けているのが伺えました。


SL大樹SL大樹


日本のレジャー施設はバブル期に集客範囲は全国で、遠くから来る人はたくさんお金を使ってくれるという神話のもとに、地元民にとっては高すぎる客単価設定をしたため、地元の利用者を伸ばせず破綻したなんていう施設もたくさんありました。要は施設の周辺客を無視した集客構造でした。
また、地元から理解が得られずに開業して周辺住民が来なくて集客経費がかさみこれまた破綻という施設もあります。

SL大樹のソフト面はとても勉強になる

SL大樹の運営を見て、地元民との良い関係を築く、(運転士などの)専門業務の人も接客業だという意識。こうしたことがないと一つの(観光)イベントとしては成功しないんだなぁということを強く感じます。

地方創生事業の中には「観光の再生」という項目があるそうですが、観光で地域の再生を図るのであれば、観光業者と地元民の関係性や町ぐるみで接客するという姿勢がないときっとうまく機能しません。こうした活動の成功例としては先日のラグビーワールドカップでしょう。

SLやラグビーがなくてもこうしたおもてなし意識を継続できるのか?観光都市には求められますし、レジャー施設のような場合には接客部門以外も接客業であるという意識づけや地元民に参加してもらう活動などでいい関係を持続するなどが重要になります。

レジャー施設に限っていえば、SLの運転士さんのような職業の人も笑顔で接客する人が増えてきたということはそれだけライバルが多くなってきたということですから、危機意識はより強く持ってもらいたいものです。

 

 

 


 

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