【068】中小遊園地で売上増加策を講じるために検討すべきこと(物販編 1/2)
「新しい生活様式」が遊園地やテーマパークに与える変化
“with CORONA”といわれる昨今、遊園地やテーマパークも再開した施設が増えてきましたが、今までのように無制限に入場者を受け入れることもできず、消費の要であるアトラクションも定員に満たない状態で稼働させなければならないなど未だにいろいろな制約を受けています。
入場料とアトラクションの利用料をセットにしたいわゆるパスポートを適用している施設ならともかく、こうした施設の多数は入場料と利用料を別々にした料金体系のところも多く、今までのようにパスポート収入を収益の根幹にしている施設では大きな減収の要因となると思います。
そもそもゲストを入れてナンボの施設で入場者数に制約があるというのは大きな問題です。しかし、この現実は受け入れなければならず当分は続くことになりそうです。この状態で増収を考えるとすれば、飲食や物販など施設に滞在することで消費することによる収益に頼らざるを得ません。中国では飲食や物販は二次消費といわれていて、アトラクションの次の消費と位置付けられ、大事にされていないという事実もありますが・・・。
アトラクションなどの利用料(以降単に「利用料」と記載します)はゲストの消費の点で見れば、1ゲスト=1消費の関係にあります。乗り放題になるチケットを一人で二枚も買うような無駄なことを普通はしません。一方、二次消費に当たる飲食や物販はゲストの趣旨にあえば複数回利用してもらえます。反面、趣旨にそぐわなければ全く利用されないこともあります。当然平均すると消費金額は利用料に比べると小さくなるのが一般的です。
ゲスト:利用料=1:1
ゲスト:飲食or物販=1:≧0
施設の運営者は0以上である(0になることがあり得る)という点を見逃すことが多いので注意が必要です。
大抵の日本のテーマパークや遊園地の消費単価は
利用料:飲食:物販=7:2:1
というのが常識的な数値です。これが中国だと計画段階の数値でも
利用料:飲食:物販=8:1.5:0.5
などと利用料にかかる負担はさらに大きくなっています。
元々負担の大きな売上科目が今回のコロナ騒動で集客が減り、さらに利用料の消費単価まで減ることになってしまったら大打撃です。
現状の打開策としては少しでも飲食や物販の売上を伸ばして、落ち込んだ利用料の穴埋めをする必要が出てきます。そうしたときにどのような手順で現状を把握し、どのような対策から講じていくべきなのかを検証してみるというのが今回の話の主旨です。
物販の売上を構成するもの
まずは物販を取り上げてみます。
売上と入場者数
ゲストの属性が入場者数によって大きく変化することはあまりないので、一般的に入場者が多くなれば売上も伸びます。物販の利用はゲスト個人の自由ですが、入場者の中で一定の比率(来店率)分の利用者がいるので、入場者が増えれば、利用者も増え、結果売上も増えます。自分の施設のデータでこのグラフを作ったときに、右肩上がりになっていなかったら大問題です。この場合には物販施設はゲストから見て全く機能していないことになります。
滞留時間と入場者数
利用料と違うのは長くいればいるほど、店舗を利用する機会は増えるのが一般的なので滞留時間が伸びれば、来店率も上がります。
その滞留時間ですが、TDLやUSJのような巨大に施設を除いた、年間集客規模100万人以下の施設では入場者と売上の関係のように比例的に増えるということでもないようです。
サンプルの施設では一日の集客数が一定数(緑点線)を超えるあたりから滞留時間が3時間を超える日が多くなっています。一定数以下の日でも3時間を超えている日もありますが、一定数を超えると3時間以上になり、以降5時間近くまで伸びる日も出てきます。
集客数が増える繁忙日は滞留時間が伸びる傾向がありますが、この施設の場合は比例的に伸びるのではなく、一定の集客数を超えると滞留時間がガラッと変わるという傾向が見れ取れます。
年間の集客規模が100万人以下の施設ではこのような急激な変化が起こることが多くなっています。これは平日と休日の集客数の差が非常に大きいことが要因であり、繁忙日と閑散日の差が激しい(繁閑差が大きい)ためです。
グラフを作ったときにこうした傾向が見れるようであれば、繁閑差が大きく、集客が休日に頼っていることを示していると考えた方が良いです
売上構成要素の推移
物販の実績を測る指標として以下のようなものを使います。
- 来店率(利用率)=店舗の利用者数(≒発行レシート枚数)÷入場者数
- 購入個数=販売した商品数÷店舗の利用者数(≒発行レシート枚数)
- 客単価=物販の売上金額÷入場者数
- 実質単価=物販の売上金額÷店舗の利用者数(≒発行レシート枚数)
- 商品単価=物販の売上金額÷商品個数
以降の検証では、サンプル施設において上記の数値が日別で数年分蓄積されていて、その相関から分析したものです。
入場者と単価の相関
三種類の単価を入場者数毎にグラフに表示します。
客単価(黄)、商品単価(緑)は入場者数の変化によらずほぼ一定ですが、実質単価(青)は入場者数が増えると増加していきます。
実質単価が増加しているのに、客単価や商品単価が増加しないのは、来店率(赤点線)が入場者の増加により下降傾向にあることが原因です。
商品単価は販売しているものが大きく変化しない限り、入場者数によらず一定で推移する場合が多くなります。ここにブレが生じた場合には販売している商品に何か変化があったことを示します。
もし客単価が入場者の増加に伴い下降しているときには、混雑時ほど来店率が低くなる度合いが顕著になっていることを示します。上昇していれば混雑しても来店率が落ちていないということになります。
入場者と来店率の相関
来店率を入場者数の一定間隔平均値(500人単位や千人単位)と比較してみます。
この施設では入場者数が多くなると平均値よりも低くなることがほどんどであり、来店率の平均値は集客数の少ない日の高さにより維持されていることがわかります。
このように平均値だけで考えると見えてこないこともあります。特に来店率など繁閑で差が出るようなものについては、入場者数毎に平均とどのくらいブレるのか?把握しておく必要があります。
さて、商業で常識と言われていることで考えると、
- 集客数が増える+滞留時間が増える →販売機会の増加
- 販売機会が増加する→来店率が増える
- 来店率が増える→店舗の実質単価が増える
- 実質単価が増える→客単価が増える
となります。
これに対してサンプルの施設の問題は集客数や滞留時間が増えると来店率が減少するという問題を抱えています。
実はこれは何もこのサンプルの施設だけの問題ではなくて、年間集客規模100万人以下の施設ではこうした状態になっている施設が非常に多いのです。
実質単価が伸びているのに客単価が伸びないという事態の原因は?
自分の施設がこうした状況になっていないかを簡単に確かめるには、以下のようなグラフを作ってみるといいです。
複数年の期間で、横軸に入場者数を縦軸に客単価(青)と実質単価(橙)を散布図でグラフ化して近似曲線を引いてみて、実質単価と客単価の上がり具合を比較します。
実質単価の傾きより、客単価の傾きが大きくなることはありません。
今回のように実質単価と比べて、客単価が上がっていないように見えるときは要注意です
今回の場合は店舗で買い物をする人は繁忙時期の方がよく買ってくれている。しかし買い物をする人自体が閑散期よりも減っている(来店率が下がっている)ということになります。
この原因は店舗数の少なさに起因している場合が多いです。年間集客100万人以下の施設では、物販店舗は入口(出口)付近に集中して配置されており、その規模は飲食店舗の面積などに比べると少ない場合が多くなります。
施設内の集客数が増えることで、「店舗が混雑する」「園内そのものが混雑する」などの理由から店舗の利用者が減ってしまうという宿命的な原因です。集客や滞留時間の増加が販売機会の増加につながらないのです。
TDLやUSJが物販店舗を分散するのはこれが理由です。
解決方法として店舗を増やせばという考え方はありますが、巨大な投資が必要になりこのご時世に簡単に決断できるようなことではありません。
繁忙時に来店率を落とさないための施策
ワゴン(仮設店舗)で補完
このようなときにまずできることとしては、店舗での販売数が増える時間帯(大抵は退園者が多くなる時間)に合わせて、ワゴンなど仮設店舗で販売機会を増やすという手法があります。しかし、実際にこうした施設に行ってみるとゲストの退園が増える時間帯にこうしたワゴンが出ていることはあまり見ません。この時間は全ての物販担当者は店舗内で右往左往しています。
ワゴンなど仮設店舗は常設店舗の売上を補完するためのものです。しかし、実際の運営を見ているとスタッフの空き時間を利用して運営されている。逆に言えば、そのくらいしかスタッフを配置していない(というか人が足らない)というのが多くのテーマパークや遊園地の物販店舗の現状です。
退園が増えるということは、園内の遊戯機器などの利用者は減るということですから、この時間余剰になるスタッフを使ってワゴンを運営するなどの対策を検討しないと、繁忙時に単価が伸びないという事態は永遠に解消されないでしょう。
ECサイトでお取り寄せに注目
もう一つは、コロナ騒動の副産物ともいえるものの活用です。「STAY
HOME」の影響で日本人は通販が日常的になりました。店舗が小さい、スタッフもいない、協力者もいない・・・と嘆く前に、こうした通販への取組を積極的に行う必要があります。
「地方の名産品のお取り寄せ」などと銘打った通販取次サイトは全国にあります。自社で通販サイトが作れないならこうした取次サイトを利用してもいいと思います。
もちろんこうしたサイトに物件を掲載していることをガイドマップや案内看板などにQRコードを付けて誘導できるようにすることが大前提です。
物販店舗の運営で大事なことはゲストの利用を0にしない努力をすることです。超繁忙日など集客の偏りは避けて通れないことです。店舗だって急に増床できるものではありません。しかしECサイトの利用はすぐにできます。すぐにできることは何でもやるべきです。
実はテーマパークや遊園地はこうしたECサイトの取組が他の商業施設に比べると総じて遅れています。かつては施設の中でだけ売るからそれを目当てに来る人を集客できるという考え方もありましたが、集客自体を制限しないといけない場合もあるこのご時世。この発想は古いといわざるを得ません。
「店舗が小さい・・少ない・・・」と嘆く前に、販売している商品をより確実にゲストに告知することをやってみる方が前向きです。
次回に続く