【064】長く使える運営作業手順書の作り方(前編)


未だに終息の気配を見せない新型コロナウイルスの流行。日本ではコロナウイルス対策のために政府が指定した「新しい生活様式」に合わせた対応がサービス業界全体で求められている。骨子は「密閉、密集、密接」という“三つの密”を避けて運営すること。当然運営の方法を変えなくてはならないので、それに伴う手順書も変更が必要になってきます。

今回は、この手順書の話です。自分は今までの実務歴の中で手順書の作成の業務が一番多かったのですが、実際に作った後、どのように活用されていくのかを見ると企業によって千差万別です。

経費をかけて作ったものですから、当然会社の上層部としては活用してほしいと思っているはずなんですが、実際は・・・いいところばかりではありません。

今回は、そうした作った手順書を長く活用していけるようにするためにはどんなことに気を使ったらいいのかを考察してみたいと思います。

 


手順書、マニュアル、SOP・・いろいろな言い方があるのですが何が違うのか?

今回取り上げる手順書ですが、業態や会社によって呼び方にはいろいろあります。

手順書、マニュアル、SOP(標準運営作業手順書)、取説(取扱説明書)、能書き本(←悪い言い方です)・・・。

今までお世話になった会社のスタッフから聞いたことがある言葉を列記してみました。この先の内容でもっとも当てはまるのが“SOP(Standard Operation Procedure=標準運営作業手順書)”のことなので、以降ではSOPという言い方をします。一般的にマニュアルといわれているものと考え方はほとんど同じです。

さて、TDRやUSJのような大きなテーマパークではこれらの言い方がある程度区分されているそうです。

  • マニュアル →施設で利用する機器のメーカーから配布された冊子
  • SOP →施設側で作成した従業員向けの業務方法についての手順書

みたいな感じだそうです(人づてに聞いた話なので真偽は確認しておりませんのであしからず)。

 


根本的な問題、SOPは必要なのか?

答えからいうと「一子相伝の秘術のようなものならば必要ないでしょう(笑)。」、それ以外は「必要です」。

“SOPを使ってトレーニングをしているな”と感じる施設とそうでない施設の違いは運営している従業員を見るとわかります。

「SOPを活用できていないな」と感じる施設には、“どうしようもなく下手”な従業員が複数存在します。これはあくまでも比較の問題なのですが、その施設の中で運営が上手な人、下手な人はいます。SOPを使っているなと感じる施設は運営業務の平均点が割合高い。つまり極端に下手な人があまりいない。

運営や接客は従業員の個性も影響するので、どんな施設でも上手な人は存在します。その反対に下手な人を矯正する道具としてSOPは非常に有効なのです。

悪いところばかり探すのは良くないことですが、SOPがあるのか?(使われているのか?)という視点で見るときは、自分は下手な人を探してみるようにしています。

私の経験からの話ですが、SOPを使って指導している施設は、従業員の習熟も使わないときより早くなります。以下の図はイメージですが、早く仕事のできる従業員を育てたいというならば、SOPは不可欠だと思います。


長く使える運営作業手順書の作り方


SOPは誰が使うものなのか?

このSOPを頻繁に読むべき人は誰なのか?実際に読んでいる人は誰なのか?ここが施設によって千差万別のようです。

SOPを“マニュアルという言葉で”広めた会社の一つにマクドナルドがあげられると思いますが、ここではアルバイト含めて入社した人にまずはビデオマニュアルで仕事の概要、続いてビデオや冊子で業務の詳細を説明されるそうです。

この場合は、現場の最前線で働く従業員が使うものということになります。一方でTDRなどで従業員の教育シーンがテレビ放送されているのを見ると、トレーナーと呼ばれる人が冊子を見ながら従業員に教えています。この場合従業員は読むというよりは、読んでいる(解説している)トレーナーの話を聞いているので、厳密には読む人には該当しないと思います。

こうした違いは、従業員の仕事の仕方で変わってくるようです。マクドナルドのように店長が全従業員を見渡せる範囲にあるような施設(店舗)では、従業員にマニュアルを読ませて、その後店長の指示で動くとなりますが、TDRのように広大な敷地の中を従業員が自分の判断で動き回るような場合には、自ら冊子を読んだだけでは対応しきれないことが多いはずです。こんな時には読んだだけでは不十分で、読んで理解して実施して改善するということを繰り返す必要があります。

読んだ後の対応については差異がありますが、まずは教えるためのツールであるということを考えると、この章のタイトル「誰が使うのか?」という意味では教える人(トレーナー)が一番使うべきものになると思います。

SOPがあるから「読んでおきなさい」とか「読んで理解してください」というだけでは従業員に業務を浸透させることは難しいのです。せめて一緒に読んで理解させるところまでは付き合ってあげることが必要です。

TDRのような施設で働く方からはこんな話は聞いたことがありませんが、同じレジャー業界で働く人の中には「SOPがあるから読んでおいて」と教育を放置してしまう人もいます。
また、最初に作ってから必要な改定がされていなくて、SOPに書かれていることの中で「この部分は今と違うので・・・」という人もいます。
こんなシーンを見ると“SOP”をちゃんと使っていないというのはすぐにわかります。

従業員の覚えが悪いのではなくて、教えるツール(SOP)と教える人(トレーナー)に問題があるのに、「従業員がSOPを読まなくて困るから何とかしてください」と嘆く施設の管理者は実は多いのです。

 


上手に使える人に教わると、長く根付いて使われるという話

自分がこの仕事を始めて間もないころ、とある施設のSOPを作ったことがあります。自分の担当はアトラクションだったのですが、初めてということもあり、色々試行錯誤をして何とか納品することができました。

その後、作ったSOPは開業前のトレーニングの担当者に手渡されたのですが、この人たちがマニュアルを作り変えているシーンに遭遇しました。まだパソコンのデータをフロッピーディスクでやり取りしていた時代です。今みたいにコピペなんて簡単にできません。

自分としてはせっかく作ったSOPをバラバラにされて、色々と手が加えられていくのが不思議だったのですが、トレーナーに聞いてみると

「SOPとトレーニングテキストは違うもの」

という答えが返ってきました。(当時の自分には)全く不思議な話なのですが、その人たち曰く、SOPをもとにして自分たちがトレーニングで重視することや順序を考えて作り直すことがトレーナーの仕事の一つであり、トレーナー自身が教えやすく、その時に教える従業員の気質や能力に応じて適時作り変えることが必要だと教わりました。

さらに、いろんなトレーナーがテキストにして教える中で、SOP本体に更新の必要が出てくる。SOPそのものを使うと改善につながるような問題点が見えてこないとも言われました。

この話は自分には衝撃的でした・・・考えてみると客観的に書いたつもりでも最初に書いた人の視点で作られたSOPを進化させるにはこうして各トレーナーが自分の教えやすい方法に作り変えて、トレーニングを実施してSOPの問題を見つけ出すことが必要だったという話です。実に理にかなった改善方法です。

この時初めてSOPが更新されるということを教わり、その更新方法というものを教えてもらいました。その結果この施設では、トレーナーが受け繋がれて、そのたびSOPも更新されていきました。

中国でこの話をする際には、以下のような図を見せて説明しています。使っては直す、直してまた使う…これを繰り返すことでSOPは磨かれていきます、という話です。


長く使える運営作業手順書の作り方


別の施設ではSOPを作ったもの、上述の方法とは真逆の方法で教えたため、SOPは最初のままでした。どっちが優秀な従業員を多く作ったかは言うまでもありません。

 

次回に続く

 

 

 

 

 


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