【058】世界6カ所のディズニーランドを一気に回って見えた「サービス」の源泉とは何か?
7月にTDLが運営を再開してもう5ヶ月経ちました。新規エリアもオープンし、厳しいチケット競争に勝ち抜かなければ行けないという状況はまだ続いているようですが、それでも欧米のディズニーランドのように休園期間が続いていることを思えば日本は恵まれているのかもしれません。
そんなTDLについて先日、以前に比べてショーの観覧時のルールが緩くなっていることを嘆いている記事を見ました。確かに海外と比べると東京はいろいろな厳しい制約があります。こんなことを含めて、今回はサービスというものの正体について解析してみたいと思います。サービスサイエンスファクトリーでは今まで数値による解析が多かったのですが、今回は数値的な検証はあまりできませんので悪しからず。
日本でいう「サービス」の源泉は何か?
「TDLは“サービス”レベルが高い」とよく言われます。サービスという意味をネットの日本語国語辞書で引いてみると以下のような言葉が出てきます(Goo辞書)
- 人のために力を尽くすこと。奉仕。
- 商売で、客をもてなすこと。また、顧客のためになされる種々の奉仕。
- 商売で、値引きしたり、おまけをつけたりすること。
- 運輸・通信・商業など物質的財貨を生産する過程以外で機能する労働。用役。役務。
私が小学生の時から使っている三省堂国語辞典(昭和49年第二版)では
- 奉仕
- 給仕・接客の仕方
- 商品を売った後で無料または安い料金で行う修理その他の世話
- おまけをつけること、または無料・割引などの形で提供すること
- 料理店などの特別なもてなし
と書かれています。30年以上たっても日本人の意識としては大きく変わってはいないようです。辞書の記載からもわかるように、日本人にはサービスとは「人のために力を尽くすこと。奉仕。」が一番重要な要素になるようです。
奉仕という言葉が示すように奉仕をする人は奉仕を受ける人に対して遜った態度で接することが求められるはずで、ここで礼節という考え方が重要になってきます。日本式のサービスは常に「礼節」が伴っていなければよい評価が得られないことになります。その意味でTDLの運営指針SCSEのC(Courtesy:礼儀正しさ)が二番目なのはうなずけます。
もうちょっと深堀します。年間で3000万人以上のゲストが訪れる施設で全ゲストに良いサービス(奉仕)をするためにはいくつか工夫が必要です。えこひいきが起こらないようにすることが大事であり、全ゲストに平等に同じサービスを提供することが必要になります。そこで「すべてのゲストはVIP」という方針が必要になり、すべてのゲストに平等な条件で施設を楽しんでもらうためにショー実施時には座り方の規定があったりや帽子や装飾具を外すなど当該ゲストよりも後方のゲストに対しての配慮を求めてきたとなるはずです。先日の記事ではここが最近のルールから外されて、後方のゲストが見えにくくなったことを嘆いていました。
どうやら日本のサービスの源泉は礼儀正しさ(礼節を重んじる)ことにあるようです。
中国ってどうなの?
香港ディズニーランドはどんなサービスだったか?答えからいうと日本のサービスをよく研究して実践しようとしていました。開園当初(2005年)はランドマークのお城の前で子供に用足しさせていたなども話もありましたが、もちろん今はそんなことはありません。入場時やアトラクション利用時の接客対応も日本とよく似ています。
ただしパレードなど一定の場所にゲストが集中する際に日本のように座って鑑賞するとか、前の人のさらに前には入り込まないなどのルールは日本ほど徹底されていませんが、設定はされているようです。設定しても守らないということは中国系施設ではあり得ますが、ゲストには“自由”に楽しんでもらうことがサービスの重要な要素されているようです。
香港ディズニーランドが日本を手本にしているように見えるもう一つの理由は、日本と同じで国土が狭いということでしょう。また雨が多いという日本の気候とも似ているところがあります。しかも香港ディズニーランドは世界で一番小さなディズニーランドであり、効率(Efficiency)を重視しないと施設の維持には問題が起こります。その意味では香港ディズニーランドの運営指針をゲスト目線で見てみるとSFSE(Safety,Freedom,Show,Efficiency)といえるようにも思います。我々日本人にとっては最もなじみやすい海外のディズニーランドなのかもしれません。
上海ディズニーランドに至っては安全という意識よりも自由が優先されているようにも思われることが多々ありました。パレードの鑑賞時には木に登る、オブジェに登るなどTDLでは安全に配慮してNGとされていることも“自由”に行えます。さすがにアトラクションの乗車人規定などは他のディズニーランドと同じようになっていましたが・・・。
一方で、ショーやアトラクションの規模は日本よりも大きいものがたくさんあります。これは中国では「満漢全席」に代表されるようにもてなす際にはゲストの想像を超えるものを提供することが良いサービスとされていることに起因していると思われます。ショーの会場の大きさや、出演するショーキャストの数、パレードのフロートの多さなどは他のディズニーランドより明らかに大規模です。中国本土ではこうした規模の大きさがサービスの基準となっているようにも思います。日本ではサービスは“奉仕”を重視しますが、中国(本土)ではサービスは“(想像を超える)もてなし”を重視するようです。
上海ディズニーランドの運営指針をあえて言うならばFSSL(Freedom,Safety, Show,LargeScale)というようにも見えます。
これは日本に比べると自由というものに価値がある(と日本人の自分からは見える)中国というお国柄が影響しているのかもしれません。中国においてはお金を払って得られる自由(お金を払う以上自分の好きにさせて欲しい)というものがとても重要に思われているように感じます。自由かつ規模が巨大という考え方が他のディズニーランドにはない考え方なので、上海ディズニーランドのサービスは他の国の人から見ると異質に見えるのかもしれません。
ディズニーランドパリ(欧州)はどうなのか?
東京、香港、上海に続いて行ったフランス。欧州でのサービスとはどんなものだったのか?という話です。いろんな文献を見ると欧州の人は自分中心とか周りに配慮しないなどという言葉を目にします。この背景には各国が地続きのため昔から地域同士の紛争も絶えなかったし、日本のような島国と比べると民族移動も簡単にできるので周囲に誰がいるかなどを日本ほど気にしないという気質があるようです。
パリのディズニーランド(ディズニーランドパークス)においては、接客の言葉というと「Bonjour(こんにちは)」「merci(ありがとう)」が聞けるくらいです。日本やアメリカに比べるとかなり言葉も少なくてある意味冷たい感じもします。でもこちらから積極的にコミュニケーションを仕掛けると自分のような下手な英語でもちゃんと対応してくれます。
日本やアメリカに比べてキャストが積極的に見えないのはゲストが話す言語がたくさんあるということに起因しているように感じます。最近はTDLも外国人が増えましたが、せいぜい1割未満。しかもほとんどの人は英語が通じます。一方でパリは母国語のフランス語に加えて、英語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語・・・。実に多言語です。母国語(フランス語)以外のガイドマップを選ぶ人が多いディズニーランドはパリがダントツでしょう
見た目は同じでも話す言語が違うかもしれないのでは、キャスト側が積極的にコミュニケーションを取ることを躊躇するのもうなずけます。国が違えば言語の他に習慣も違います。レストランなどでも散らかす人もいますし、タバコを通路に捨ててしまう人もいます。またショーの観覧などでは横割りなどもたくさんあります。ここを統一したルールで縛ることはなかなか難しいと思います。そういう背景もあるからでしょうか?パリのディズニーランドパークスのショーは所定の観覧場所を作らずに立ってみる、ステージを4つにしてキャラクターも分散配置という方法を取っていたりもします。
ではパリのディズニーランドパークスがサービスで大事にしていることは何なのか?日本人には理解しがたいところですが自分は「個性(Individuality)」ではないかと思います。国、言語、民族、習慣などが複雑なため、フランス式の礼節を振りかざしても通じない場合もあり、むしろ各国の個性を尊重することでパークの雰囲気を楽しいものにするのがフランス流のように感じます。個性を重視するので、無理にコミュニケーションを取ったりはしませんが、話しかけてくれば対応してくれるし、楽しませてくれます。来訪するグループ毎にそれぞれ個性が違うので、ゲスト同士を仲よく巻き込んで…といったイベントはありませんが、自分たちの好みに合わせて楽しむことを影ながら支援するというのがフランス流のディズニーランドの接客でした。
ディズニーランドパリの運営指針をあえて考えるならSISE(Safety,
Individuality,Show,Efficiency)という感じでしょうか?いくら個性を重視するからと言ってその行為に危険性がある場合には注意されますし、来訪当時はテロ問題がある時期だったので入口での荷物検査などは最も厳しかったです。
本家アメリカのサービスとは?
日本から西回りに辿って最後に行きついたのがアメリカ大陸。ディズニーランド発祥の地です。もともとTDLはアメリカのディズニーランドのフランチャイズとして誕生し、運営されているので共通しているところも多いはずと思いましたが、日本ほどの礼節を重視したサービスは皆無です。パレードなどでも日本のようなルールは全く存在しません。でも“なんか楽しい”というのがアメリカです。
日本に比べるとアメリカは歴史が浅い国ですが、世界で最初に経済的に裕福になった国であり、裕福さから生まれるエンターテインメントについては世界の他の国よりも先んじています。アメリカは「enjoy:楽しませる」ことについては非常にレベルの高い国です。
サービスも常に楽しませる(心地よくさせる)ことが重視されているように感じます。TDLでは禁止の長髪の男性、目が見えないくらい濃い色のサングラスをかけたキャスト、質問しても自分の担当ではないと“たらい回し”を受けることもありますが、いつも笑顔で、話の最後には必ず「enjoy」をつける。日本人的に見ると最初はひどいが最後に逆転ホームランで良いコミュニケーションだったという印象を残すことに関しては、世界中のディズニーランドの中でもずば抜けています。
一方でオペレーションという面で見ると日本のように背筋を伸ばして正しい姿勢での運営、ゴミ箱や灰皿は溜まる前に交換、飲食店舗のテーブルはゲストがいなくなったらすぐにバッシングをかける・・・などといったものはあまり見られません。トイレも床が濡れていたり、トイレットペーパーが散乱していたりなど見かけました。
アメリカも特にディズニーワールドは世界中からゲストが来ているので欧州のような多民族性が目につきますが、それ以上にアメリカは働いているキャストの多民族性が目につきます。白人、黒人、ヒスパニック、アジアなど様々です。キャストの民族上下意識なども感じられるので一般的に「汚い」といわれるような場所の清掃などは上下意識の高い民族による手を抜きがちなところもありました。
それでもキャスト全員が「ゲストを楽しませる」という意識は共有できているようで、東京では見られないような大声で自分を呼んだり、操作時にはあえて一緒に手を握ったりなどしてくれます。
日本でも「接客対応は最後が大事」という人がいます。最初は問題があっても、接客が終了するときにうまくいっていれば良しとするという考え方です。礼儀正しさの観点で見ると「?」と思われるけど、楽しませるために積極的に声をかけるという態度は東京よりも優れた結果を残します。例えば小さな子供連れの家族などにはあちこちで子供にも声をかけるので“迷子がでない”ように意識しているように見えます。一瞬迷子になっても大声で家族を引き留めてすぐに引き合わす。こうしたことは積極的な「enjoy」の声掛けが生む産物です。
ディズニーワールドと本家のディズニーランドの運営指針をあえて考えるならSESE(Safety,Enjoy,Show,Efficiency)という感じでしょうか?
世界中を見てみるとわかること
日本のサービス視点で見ると本家のディズニーランドでも「あれ?」と思うこともあります。でも、サービスの源泉が国により違うようだということを理解できれば、各国のディズニーランドはその国のサービスの基準に合わせて高いサービスで運営しているということが理解できました。日本でも「郷に入れば郷に従う」という言葉があります。それぞれの郷の中で最高であれば良いわけで、違う郷のサービスを自分の郷の基準で考えるのは理にかなってはいないようです。
現在は欧米のディズニーランドは休止中です。再開の見通しも立たないし、再開したとしても従来のような運営ができるかとても懐疑的です。再開したらまた今回の話のような視点で回ってみたいと思います。ちなみに、独りで行くとどの国に行っても日本人的に見ても優しく対応してもらえましたよ(笑)
“独りで一気に世界中の「DisneyLand」を巡る旅”は2019年の2月27日から2019年の3月19日まで実施したものです。詳しくはこちらからどうぞ
ショーやパレード、気になった運営の映像はyoutubeでも見れますのでどうぞ